マイクロフィルム保存 の手引き
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発行所: (公益社団法人) 日本文書情報マネジメント協会 『マイクロフィルム保存の手引』 〒101-0032 東京都千代田区岩本町2-1-3 TEL東京(03)-5821-7351 FAX東京(03)-5821-7354 |
情報発信HP: マイクロフィルム専門業者の (株) 国際マイクロ写真工業社 |
はじめに マイクロフィルムは、文書や画像の記録に重要な材料です。 公文書館、博物館、図書館、官庁、企業、大学をはじめ金融・保険・流通・製造など広い分野で使用されています。 また、情報のディジタル化など情報の伝達手段が多様化する中でマイクロフィルムの長期保存性や法的証拠性、 規格の統一性等の記録材料としての良さが改めて見直され、 貴重な文化遺産の大量保存やイメージの情報のデータベースとしての活用等、新たな利用も盛んになってきております。 数ある記録メディアの中で長期保存の実績があるマイクロフィルムですが、 実績があるだけにその期待はさらに高まり、 寿命を最大限に延ばせるような管理の仕方についての関心が集まっています。 マイクロフィルムの特徴である”長期保存”を生かすためには、「正しいマイクロフィルムの保存と管理」が大切です。 この手引きが、利用者の皆様の目的にかなうよう活用いただければ幸いです。 |
1.劣化を起こす要因 | 2.フィルムの構成 | 3.フィルムの異常現象 | |||
4.TACフィルム劣化のチェックと 対策手引きの簡易フロー |
5.マイクロフィルムの保存と管理 | 参考文献 |
1.劣化を起こす要因 マイクロフィルムは色々の要因で劣化を起します。 その要因は、一般に 1)写真フィルムの性質、 2)写真フィルムの現像処理、 3)保存環境の三つに分類されます。 |
1)写真フィルムの性質 写真フィルムによる記録の安定性は、その処理済みフィルムの物理的、化学的性質に依存していますが、 最も保存に適している材料は銀・ゼラチンフィルム(安全写真フィルム)だけです。 昭和33年(1958)以前のフィルムは可燃性のNC(ニトロセルロース)ベースが使用されていました。 このNCベースは自然 発火することもあり保存には適さず、 TACベ ース(安全写真フィルム)になった以降のフィルムが保存に適していると JIS、国際標準(ISO)で規定しています。 2) 写真フィルムの現像処理 現像処理は、処理後のフィルムの画像保存性に影響があります。 黒白の銀ゼラチン型の保存用写真フィルムについては、残留チオ硫酸塩及び残留銀化合物の最大許容値がJISZ6009-1994、 ISO 10602に規定されています。 標準には規定はありませんが乾燥条件も重要なポイントです。 一般にマイクロフィルム用の処理機は、その仕様通りの標準処理を行えばこの規格内に処理されますので、 マイクロフィルムを処理する専用ラボに依頼するか、専用処理機で処理すれば処理上の問題はありません。 3)保存環境 マイクロフィルムの異常の大部分は、保存環境が不適切なために起こっています。 三つの要素のうちユーザにとってもっとも大切なのが保存環境です。 現像処理済み写真フィル ムの保存に特に影響を及ぼす要因は、温度・湿度及び保存環境の汚染であり、 そのほか水、光、かび、虫、微生物などによる破壊、化学物質との接触による劣化及び物理的損傷があります。 |
2.フィルムの構成 マイクロフィルムは下図のようにベース(支持体) に感光膜(乳剤)が塗布されてできています。 1) ベース(支持体) 銀塩感光材料の支持体は、1839年にダゲレオが銀板上に写真を作り、 同年タルボットが紙で写真を作ったことに始まります。 1889年頃、現在と同じような柔軟性のあるベースが使用 されるまで、 撮影用にはガラス乾板が使用されていました。 ベースとしてニトロセルロース (NC) が使われるようになり、 ロール状のフィルムとなり一般に広まり映画ができるようになりました。 国産のマイクロフィルムは昭和26年 (1951) に発売されましたが、 この時のベースもNCが使用されていました。TACベースが使用され始めたのは昭和29年 (1954) 頃で、 昭和33年 (1958)以降全量TACベースになりました。 TACは難燃性のためわざわざ”安全”をつけて安全写真フィルム (safety film)と区別をしていました。 現在でもISO・JISで安全写真フィルム と言っているのは、TACベースのような難燃性 ベースを使用したフィルムを言っています。 この難燃ベースになって、 ようやく銀・ゼラチンフィルムは永久保存ができるものになったという認識になった訳です。 1987年 (昭和62) 頃にTACベースが変質する事象が発見され感材メーカー(KODAK, FUJI,AGFA) が国際会議を開き、原因究明を開始しました。 1991年 (平成3) 夏、高分子劣化国際シンポジウムでTACベースの劣化 (加水分解) が報告され、マイクロフィルムも保存条件をしっかりしないと永年保存ができないことから、ISOの見直しが始まりました。1993年 (平成5) 12月に新聞に大きく報道され、TACベー スの保存性に関しての関心が高まりました。 日本でのPETベースの使用は昭和48年(1973 年) 頃からで、TACベース品とPETベース品は並行販売されていました。マイクロフィルムは永年保存を必要とする材料であることから、 平成5年 (1993) には全面PETベースに代わり ました。 しかし、現在もTACベースはカラーフィルムなど多くの製品に使用されています。 |
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2)感光膜(画像形成層) 光に感じるハロゲン化銀がバインダーであるゼラチンと共に数ミクロンの厚さで塗布されています。 この形態はマイクロフィルムができてから変わっていませんが、昭和47年 (1972) 頃までのフィルムは膜厚も厚く、膜質も弱いため低温(20℃)でしか現像できず、乾燥時間も長く必要なフィルムでした。 現在は、38℃でも膜は溶けず、乾燥時間も10秒程度で乾くような膜になっています。 ゼラチンは現像する時には瀬を膜中に充分に含み、現像を可能にする重要な役割を果たしますが、 処理後高温に曝すと水分を含み色々な現象を引き起こします。 以下これらの現象を順を追ってご説明します。 |
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3.フィルムの異状現象 マイクロフィルムは、その保管・保存環境や処理条件によって異常現象が起こり、 本来の保存性を維持する事ができない場合があります。 保存中に起こるフィルムの異常現象には、写真材料自体、現像条件、保存条件に起因するものがあります。 1) 変色・褪色 2) カビ 3) くっつき・膜面のはく離 4) クラック・ひび割れ 5) マイクロスコピックブレミッシュ 6) TACベースの劣化 |
@現象: |
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2) カ ビ @現象:乳剤膜にカビが発生し、膜面・膜内画像がおかされる。 A発生原因:湿度60%以上の環境に保管されていた。(水害、水漏れ等でフィルムが一時的に異常に高い湿度になると乳剤膜が 吸水し、その後の環境がそれ程高くなくてもフィルム自体が高湿でカビは発生する)乾燥不良で巻き込んだ。 汗や脂で汚れた手で直接フィルムの膜面を触った。 B防止対策:保管条件をJIS/ISOの条件環境に保管する。(湿度を50%以上にしない)指紋をつけないように注意深く扱う。 C発生時の対応策:膜中に発生したカビは取り除くことはできない。 表面のカビはフィルムクリーナや水洗処理で取れるが、 画像部が欠如することもあるので事前にテストをしてから実施する。 |
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3)くっつき・膜面のはく離 @現象:フィルム同士がはりついてしまう。その結果膜がはがれてしまう。 A発生原因:湿度60%以上の環境に保管されいた。湿度・温度が異常に変動した。乾燥不良のまま巻き込まれた。 B防止対策:保管条件をJIS/ISOの条件環境に保管する。調湿剤・乾燥剤の利用。 C発生時の対応策:程度により異なるが、重度のものは救済不能なので予防が最善の対応策。 4) クラック・ひび割れ @現象:エッジ部のはく離、 ひび割れ、 画像膜全面にアミ目状のひび。 |
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5) マイクロスコピックブレミッシユ @現象:画像銀が酸化を受けて微細なコロイド銀に変わり、黄色・褐色の斑点ができる。 A発生原因:保存環境の有害物質・ガス (オキシダント、亜硫酸ガス、過酸化水素等)による影響。塗料、ゴム等、合板・木材。 B防止策:有害物質・ガスが進入しない低温低湿の場所に保管する。保存に適した部屋、包材を使用する。保護処理をする。 C発生時の対応策:発生したブレミッシュは消えない。デュープフィルムで複製すると程度は軽くなる。 また、レギュラータイプのグラフペーパでハードコピーを取るとリーダプリンタのコピーよりダメージは少ない。 保存条件(温度・湿度、吸着剤の使用)を良くすると進行は止まる。 |
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6)TACベースの劣化 @現象:酢酸臭、フィルムエッジの波打ち、べとつき、白い粉の析出、画像の崩れ、ベースの破壊。 A発生原因:高湿によるTACベースの加水分解。高温、金属缶、金属リール、密閉容器で反応が早く進む。 反応が始まり酢酸臭が出始めると、発生した酢酸が触媒となり加水分解が加速される。 さらに進行するとTACベースと共に可塑剤の分解も起こりゼラチンやポリスチロールのリールまでも溶かしてしまう。 酢酸臭が出始める期間は 24℃50%RHでは密閉状態で約30年 30℃50%RHでは密閉状態で約15〜20年 35C70%RHでは密閉状態で約6〜7年 B防止対策:規定条件下での保存。TACの劣化は加水分解なので特に湿度 (水分) には注意が必要。 2年ごとの抜き取り検査は着実に行い、 もし酢酸臭がしたら放散処理を行いできるだけ早めにPETベースのデュープフィルムで復製を取り、 保存用と活用に分けて保存する。 C発生時の対応策:酢酸臭が出始めるとそれはもう止めることはできない。放散処理をして保存環境を規定条件にして延命を図る。 抜本対策はPETベースのデュープフィルムで複製を取る。 |
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4.TACフィルム劣化のチェックと対策手引きの簡易フロー |
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5.マイクロフィルムの保存と管理 1)フィルムベース 現在販売されているマイクロフィルムのベースはPET(ポリエステル)ベースですが、 すでに作成されているフィルムにはTACベースもあります。 TACベース品はベース(感光性物質を塗布する支持体)にセルローストリアセテート(セルロースエステル) を使用したフィルムで指で簡単に切ることができます。 PETベース品はベースにポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)を使用したフィルムで指で切ることができません。 マイクロフィルムの保存方法は以前は、密封の金属缶に入れテープで密閉することになっていました。 したがって長く保存していた古いフィルムはそのように保存されていたものが多いと思います。 特に使用せず(検査もせず)に密封系で保仔していたTACベースのフィルムは注意が必要です。 普段リーダプリンタなどで使用していたフィルムは傷はあるかもしれませんがTACの劣化は進んでいない場合が多いです。 マイクロフィルムの保存条件はISO/JISで規定されています。 現在の規定はベースの加水分解が分かってから改定されていますので、 これから保仔するフィルムについては条件さえ守れば問題はありませんが、 いままで保存していたフィルムについては規定自体も違っていたこともあり、 現在のISO/JISの条件にしたからといって安心せずに、定期的な検査や場合によっては、 はやめのPETベースへのデュープを計画した方が賢明です。 ISO10602によれば期待寿命は次のようになっています。 TACベース品 :100年 PETベース品 :500年 |
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-注- (1) 理想的には、温度は長期間にわたって25℃を超えてはならず、20℃より低い温度が望ましい。短期的なピーク温度は、32℃を超えてはならない。 -備考- 1.この温度及び湿度の条件は、1日24時間維持しなければならない。 2.セルロースエステル及びポリエステルのフィルムを同一の場所で保存する場合、永久保存で推奨される相対湿度は30%である。 3.温度又は湿度は短時間に変動反復しないようにする。 -検査- 2年ごとに抜取とり検査をし、(目視、臭気、包材も含めて)異常があれば頻度と数量を増やします。 同時に適切な処理を施します。また、ISOは下記の様に1996年末に改定され、 さらに湿度に対して厳しくなりより低湿条件になっています。 低湿での物理的な損傷を考えるとこれ以下の低湿条件にはしないようにしてください。 |
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Maximum temperatures and relative humidity range for storage
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(4) 保存器材 @調湿キャビネヅト A乾燥剤シリカゲル等(極低湿に注意しこまめに交換する) B乾燥・吸着剤 活性炭等 C調湿剤 |
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参考文献 ('90年以降の文献の例) 〈緊急レポート〉 |
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