資料保存(参考文献) 『資料保存とメディアの変換 −マイクロフォーム化を中心に』   国立国会図書館第4回資料保存シンポジウム報告  『月刊IM』 '94年1月号別刷より


シンポジウム報告第4回資料保存シンポジウム開催される
国立国会図書館主催  (社)日本マイクロ写真協会協力
『資料保存とメディアの変換 −マイクロフォーム化を中心に』

目次
「保存方法としてのマイクロフィルム化」 「マイクロ写真入門―
わが国のマイクロ写真小史と
業界の現状」
「資料保存と資料のマイクロ化」 「国文学研究資料館における
原文献資料システム
―マイクロフィルムから光ディスクへの変換」
「東京都立中央図書館における
資料保存対策の現状について」
「メディアの複写、変換、保存の意味」
「文書館における
資料保存とマイクロフィルム」


      挨拶する廣岡理事長
去る10月25日 (月) 10:00―17:00国立国会図書館において 『資料保存とメディアの変換−マイクロフォーム化を中心に』 というテーマで、第4回資料保存シンポジウムが開催された。

ブリティッシュ・カウンシル後援、日本マイクロ写真協会協力のもと、館外関係者215名、国立国会図書館(含支部図書館)職員38名合計253名が参加し、熱心にメモをとりながら聴講すると共に、講演終了後も種々の角度からの質疑応答があって極めて有意義であった。

同館では当日会場 (新館講堂) 前のホワイエにおいて、マイクロ写真関係の機器・資料の展示を行うため、当協会に対して協力の要請があったので、日本マイクロ写真(株)「各種形態のマイクロフィルム」、ミノルタ事務機販売(株)「マイクロカメラ、リーダプリンタ」、富士写真フィルム(株)「マイクロフィルム―光ファイル変換システム」 の3社に依頼してそれぞれ対応していただくと共に、協会出版物の販売を行った。

同館の展示資料としては、1953年開催の 「マイクロ写真展示会」 に合せて頒布した、我が国最初のマイクロ写真に関する本格的解説書『マイクロ写真の手引』 (執筆:村尾成允受入編さん課長)及び、1948年米国議会図書館から日本学術会議に貸与され、翌49年同館に移管されて、我が国の資料マイクロ化事業に貢献したレコーダックE型カメラ (イーストマン・コダック社) があった。


今回のシンポジウムの主旨にもある様に、図書館・文書館資料の保管には
    a) 記録された情報を原資料と異なる媒体に移し換える。
    b) 資料の物理的原形を保存する。
という二つの方法がある。

前者がいわゆるメディ ア変換といわれる方法であるが、メディアとして何を選択するかは、保存政策において重要な問題となる。その際大量の資料が対象となること、経済的に実現可能であること、メディアが素材として長期保存に耐えること、利用しやすいこと等が選択の基準となるが、現時点においては、マイクロフィルムヘの変換が最も一般的な方法といえるであろう。

しかし一方では、ニューメディアの発達により、新しい可能性が開かれつつあることも事実である。そこで今回のシンポジウムでは 「マイクロフォーム化を中心としながら、メディア変換の意義について考えたい」 という主旨に基づき、資料保存とマイクロフォームを中心とした電子ファイル関連各界を代表する講師により、現状と問題点についての考察と今後の在り方についての講演が行われたのである。


国立国会図書館収集部長 井門 寛氏の 「このシンポジウムの成果が、国内における資料保存態勢の強化につながる」 という開会挨拶に続いて、「人物交流に重点をおくB.Cとして本企画に協力するため、ヨーロッパを代表するフェリス氏をお招きして実状を報告していただくことにした」 と述べたブリティッシュ・カウンシル図書館長西田俊子氏及び「イメージ情報管理の面からも極めて意義のあるシンポジウムである」 と述べた当協会理事長 魔岡 毅氏の来賓挨拶があった。  
続いて基調講演に移り、7名の講師による講演と質疑応答が行われたのであるが、以下順を追ってその概要を報告したい。(講演集は後日日本図書館協会より刊行の予定)



1.「保存方法としてのマイクロフィルム化」
(英国図書館全国資料保存対策室長 ヴァレリー・フェリス氏)



(1) 英国図書館におけるマイクロフィルム化
紙の劣化が著しい資料を最優先し、利用頻度が高いために汚損・劣化の危険に曝されている資料についても同様にマイクロフィルム化して利用に供する。撮影後の原資料は、劣化を防ぐために中性紙で包装し、対応するマイクロフィルムの整理番号を付して、保存のために利用を制限している。  (外国新聞は破棄)   現在2,200万ft、1億7,200万こまを所蔵。

(2) マイクロ化プロジェクト
出版社との共同プロジェクトを編成して、図書、新聞、雑誌、非図書資料、東洋・インド庁関係資料等のマイクロ化を進めている。


(3) 国内的・国際的協力プログラム
現在英国図書館の蔵書約200万冊が、またドイツでは蔵書の70〜80%が劣化しているが、大量脱酸処理が唯一の優れた方式であるかどうかについて、未確認である現状においては、資料保存のためにマイクロ化しかないと考える。
そこでオックスフォード大学やケンブリッジ大学と共に、米国アンドリュー・W.メロン財団からの援助を受けて、積極的にマイクロ化を進める一方、Newsplanプロジェクトにより地方紙のマイクロ化にも取組んでいる。


(4) マスター (ネガ) フィルムの書誌コントロール
資源の有効利用を計り、保存責任の分担を明確にすることを目的に、マイクロフィルムの書誌情報を入力して目録を作成している。米国議会図書館では NRMM(National Register of Microform Masters) 英国図書館では RPM (Register of Preservaition Microforms) その他 EROMM (European Register of Microform Masters)、IROMM(International Register of Microform Masters) 等があり所在が判る。


(5) メディア変換技術について
データそのものは残っていても、将来的に現在のハードやソフトウェアを維持することは困難であり、また利用者が機器をどの様に使いこなせるか推測できない。マイクロフィルムは、保存を目的とすることに限って著作権法上許されており、法的証拠能力も認められているが、他の電子ファイルについてはその保証がない。




レコーダックE型の展示も行われた

ミノルタ事務機販売(株)の展示

2. 「資料保存と資料のマイクロ化」
 (早稲田大学図書館調査役 山本信男氏)



(1) 資料保存とは何か
資料保存は、利用の保障とそのためのバックアップが本来の目的である。図書館活動の中心である資料は、文化遺産として後世に残すために、いたわりと願いを込めて保存しなければならない。一概に資料保存といってもローカルティーの特性を活かして対応すべきで、例えば個々の図書館はそれぞれ歴史も施設も異なるのだから対策も異なって然るべきである。また100%完全主義はダメで、無理をせず段階的な保存対策を講じることが大事である。


(2) IFLA資料保存の原則とマイクロ化
IFLA資料保存コアプログラムのガイドラインを指標とし、マイクロ化した後、原資料は中性紙箱に入れて保存し、利用を制限する。


(3) 外国における主なマイクロ化事業


(4) 明治期資料マイクロ化事業
早大の中央図書館以下33ヶ所を始め、国立国会図書館、慶應、天理、関西、カリフォルニア・バークレー各大学図書館の蔵書も借用して、98モードマイクロフィッシュを作成中である。発足後6年、10,000タイトル (25,000枚)が完了。


(5) その他
大規模なマイクロ化プロジェクトは、営利事業ではなく国の機関が中心となって、文化保存のために推進すべきことであり、理論ではなく実践活動が必要である。



     富士写真フィルム(株)の展示

3. 「東京都立中央図書館における資料保存対策の現状について」
 (東京都立中央図書館収集課長 中多泰子氏)



会場で配布された同館の 「貴重資料保存対策年次計画 (第1期)」 をもとに特別文庫245,000冊に関する解説と、1986年度にスタートしたそれぞれのマイクロ化計画について説明。


(1) マイクロ化計画対象資料
   a) 実藤文庫 (19世紀清末〜1945年の日中文化交流関係資料約5,800冊)
   b) 加賀文庫 (加賀豊三郎旧蔵 江戸期文学書黄表紙類約13,000冊)
   c) 渡辺刀水旧蔵書簡、中山太郎収集詫状類(8,738通)
   d) 東京誌料 (甲良家旧蔵江戸城関係図、錦絵類)
   e) 漢籍その他


(2) マイクロ化による効果
   a) マイクロフィルムによる閲覧、即日複写可
   b) 草双紙類は紙焼本で提供、即日複写可
   c) DDネガからの紙焼が可能
   d) 書誌学的研究で原資料を見たい場合は、特別文庫室において閲覧が可能


(3) マイクロフィルムの保存
マスターフィルムは1991年度から点検及びクリーニングを実施しているが、書庫内温度が25℃ RH36〜38%なので、1992年度からは保存委託を実施している。
その他貴重資料及び一般資料の、マイクロ化以外の保存対策についても説明が行われた。



     日本マイクロ写真(株)の展示

4. 「文書館における資料保存とマイクロフィルム」
 (群馬県立文書館副館長 田中泰雄氏)



群馬県に関する古文書・記録及び県庁の公文書等を収集・整理・保存。1982年設立・開館。
収蔵文書の概要

   a) 個人・団体等から寄託・寄贈を受けた古文書記録類 約23万9,000点
   b) 明治以降の県政関係公文書 81,207冊、行政資料 1,336冊
   c) 絵図類 1,761枚、新聞等 1,984冊、その他
   d) 上野諸藩、蚕糸業関係等 マイクロ収集文書 1,615リール

特に地域の文書館としては、資料の保存、情報の収集及びその利用を併立させるため、マイクロ化が最も有効であり、さらにそれをもとに紙焼した複製を利用に供してもいる。

マイクロフィルム(35mm、 16mm)は20℃、RH40%以下の条件下で、24時間空調のマイクロ保管室内の専用キャビネットに収納し保管している。しかしネガ・ポジ共に同一場所に保管しているので、事故があれば両方ダメになる危険性がある。
古文書には朱書き、彩色もの、貼り紙、虫損、裏書き、巻き紙、大形絵図、包紙、綴込み等一点毎に特色があるので、原資料第一主義の立場からデメリットも勘案しながら、マイクロ化を行わなければならない。


なお、参考までに配布した 「文書館におけるマイクロ導入の現状調査の概要」 は、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会が、'93.9〜10に同会加盟の文書館的施設 ('93.8現在126館186人 除図書館・博物館) 38機関に対して行ったアンケート調査の結果 (回答27機関、回答率71%) であるが、これによると利用に供しているマイクロフィルムは、ポジが僅か23%に過ぎないのに対して、ネガ(マスター) が38%もあり、大変問題である。




5. 「マイクロ写真入門―わが国のマイクロ写真小史と業界の現状」
 ((社)日本マイクロ写真協会理事 嶋崎幸太郎氏)



(1) マイクロ化プロジェクトの狙いと採用の理由
資料の保存と利用の見地から、最近大型のマイクロ化プロジェクトが進められていることは大変喜ばしいことである。例えば国立国会図書館の明治期刊行図書、岡山大学の池田家文庫藩政史料、東北大学の狩野文庫、東京大学史料編纂所の大日本維新史料稿本、一橋大学のカール・メンガー文庫、メリーランド州立大学のプランゲ文庫、東京都立公文書館、早稲田大学の明治期資料等々、その他郵政省のカード利用や自動振込申込み書等のプロジェクトもある。前述の各機関がマイクロシステムを採用した主な理由として、正確性、保存性、安全性は勿論、拡張性、互換性、国際性に優れ、さらに法的証拠性や入力 (撮影) スピードにおいて、他のメディアを凌駕しているからである。


(2) マイクロ写真の形態と特徴
高い密度(一般的縮小率1/10〜1/50)、高い画像品質、大量情報の高速入力が可能、複製・配布が容易で、しかも半永久的な保存が可能なこと、情報形態の統一化が図れる。


(3) マイクロ写真の保存対策
日本マイクロ写真協会は、93年3月工業技術院に対してJIS Z 6009 (1983 ) 「銀―ゼラチンマイクロフィルムの処理及び保存方法」の改正案を提出したが、環境条件 (中期保存マイクロフォームの保存最高温度等)、保存場所、取扱い (機械的損傷、ホコリと静電気等) について内容的に可成りの追加・訂正を行った。なお規格ではないが、参考(2)で「古いフィルムの酢酸の放散処置」 について記述している。


(4) マイクロ写真の歴史、業界の現況と将来
1925年に始まった近代的マイクロ写真は、'41年V-mailへと飛躍的発展を遂げたのであるが、わが国においては'48年米国議会図書館が日本学術研究会議に貸与していたレコーダックE型カメラを、翌'49年国立国会図書館に移管し、さらに'52年ロックフェラー財団が同館に対しマイクロラボ施設を寄附したことにより、マイクロ化事業がスタートし、現在への基礎が築かれた。
 「次世代ファイリング・システムによる、創造型オフィスヘの挑戦」と銘打って、11.9〜11に “JAPAN IM SHOW '93”が開催されるが、今や「マイクロ写真」から 「イメージ情報管理システム」へと、業務態様も大きく変貌しつつある。




6. 「国文学研究資料館における原文献資料システム―マイクロフィルムから光ディスクへの変換」 
(国文学研究資料館情報処理室長 安永尚志氏)


国文学研究資料館は、国文学に関する原文献資料の収集とその利用の促進を事業の柱としている。  このためコンピュータによりデータベースを構築し、管理し、利用することを重要な課題としている。本報告は、現在開発中の国文学研究支援システムの基幹であるデータベースのうち、特に光ディスクを用いた原文献資料 (マイクロフィルム資料に限定)の画像データベースについて、OHPを使いながら説明したい。


当館所蔵の文献資料は、長期保存性に優れたメディア即ちマイクロフィルムによる収集と蓄積が主である。しかしマイクロフィルムは、作成の手間や技術的な問題、収納スペース、厳格な保存環境条件の設定、取扱い方法等において、やや利便性に欠けデメリットもある。従って将来的な文献資料の保存法を各種検討する必要がある。光ディスクはその一方法であるに過ぎない。


現在、特定著者の作品の異本全てを入力対象としてマイクロ化し、そのマイクロフィルムから直接或いはフィルムのコピーから、30cm光ディスク (2.5GB/両面、見開きで約5万こまを蓄積)に入力している。システム開発の将来的目標は、原文献資料流通システム (オンラインで必要資料を検索・請求し、ファクシミリで複製を入手することが出来るシステム)である。また、原文献資料データベースシステムを中核とした電子図書館システムヘの展開を最終的な目標としている。



7.「メディアの複写、変換、保存の意味」
 (慶應義塾大学文学部教授 上田修一氏)

図書館は、資料を収集し、保存し、利用に供することを基本として来たが、マイクロ化を始め電子媒体化が広く行われる様になって、サービス形態が多様化した。しかし新しいメディアを積極的に取入れることも必要ではあるが、一過性のメディアに振回されることなく、図書館が社会的、歴史的に果たしている機能を考慮しつつ、収集、利用、保存に適したメディアを選択し、ルールを作る時期にきているのではなかろうか。

冊子体、マイクロ資料、電子媒体等のメディアは、形態、機能、書誌及び社会的、認知的にそれぞれ異なる特性を持っているが、表示されるデータの内容はほぼ同じものである。  一方、原資料とそのマイクロフォーム、全文データベースとの間には差異がある。  即ちメディアを中心に考えれば、オリジナルと複製との関係、メディアの変換によって残るものと失われるもの、保存されるべきものは何か等が検討の対象となってくると考えている。

この様な観点から資料の保存対策、書庫の狭隘化と保存すべき資料の選択・廃棄、複製、マイクロ化と書誌コントロール等について見直し、共通のルールを確立しなければならない。

 以上基調講演終了後、総括的質疑応答が行われ、国立国会図書館資料保存対策室長 甲斐原綾子氏より閉会の辞が述べられて終了した。 (編集部)


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