マイクロ資料の保存ガイドライン ICA 1996改訂版
『マイクロ資料の保存ガイドライン』 |
小川 千代子 様 (おがわ ちよこ) (国際資料研究所) 月刊IM‘97年5月別刷 |
ICA(International Council on Archives、国際文書館評議会)では、先頃『マイクロ資料の保存ガイドライン』1996改訂版を発行した。 これは10年前の1986年、当時英国のPRO(国立公文書館)副館長、ICAでは標準化委員会委員長であったマイケル・ローパーがまとめたICA研究シリーズVol.2『マイクロ資料の保存ガイドライン』(Guidelines for the Pfeservation of Microforms)を、ICA画像技術委員会の2人のメンバー、ボルエ・ユストレル(スウェーデン)とハーバート・ホワイト(アメリカ)が改訂したものである。 なお、初版は数年前からすでに品切れとなっていた。 |
ICAとは… | ICA画像技術委員会 | ガイドラインの構成 | ||
地球規模のマイクロ資料保存 | 複雑な所蔵関係 |
ICAとは… |
ICAはユネスコの諮問機関とされている国際NGOの一つである。 1996年現在世界約130か国の国立の文書館または文書管理当局機関、および各国の専門的なアーキビスト団体などがこれに加盟している。 日本からは国立公文書館、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会、東京都公文書館、千葉県文書館、藤沢市文書館、それに10名程度の個人が加盟している。4年に1度、世界各地で持ち回りの大会を開催するほか、各国の代表を集めて毎年各地で円卓会議を開催している。 途上国を地域ごとにとりまとめる地域支部も組織されていて、日本はその一つである東アジア地域支部、通称EASTICAの主要メンバーで、次期会長と目さ れている。 ところで、日本では「文書館」あるいは「文書管理当局機関」 というものはあまり知られた存在ではない。日本に国立公文書館があるということ、それが総理府の下におかれていることなどもさほど広くは知られていない。 現状では国、あるいは国家公務員が公務の遂行にともなって受け取ったり作成する記録とか文書を一元的に統括する役所も、日本には存在しない。 だが、世界の趨勢は、こうした当局や、そこに集中管理される記録や文書を公開するための文書館を設置することは、ほぼ常識とされている。 そのことが、ICAの会員名簿を見ているうちに浮彫りにされてくる。 |
ICA画像技術委員会 |
ICAの名簿を見ていくと、世界中に記録を保存するために知恵を出し合うための様々な下部組織がある。このうち保存する記録の種類別に設けられているのが委員会で、1995/1996年版の名簿には準備的なものや臨時のものも含め20の名前が連なっている。 今回紹介する『マイクロ資料の保存ガイドライン』をまとめた画像技術委員会は、この中の一つだ。 画像技術委員会では1993年11月の会合で、1996年までの作業予定を決めた。 マイクロ資料の保存ガイドラインの改訂はここで取り上げられた仕事であった。 なお参考までにリストアップされた作業予定をあげると、 画像技術ワークショップ、ISOとの情報交換、デジタル画像技術紹介パンフレットの作成、既存の標準とデジタル画像技術と のすり合せ、文書館における保存をめぐるデジタル画像技術とマイクロフィルムの比較研究、画像技術の保管・バックアップ・メディア変換、カラーマイクロフィルム化に関する技術研究、途上国での情報技術の利用を巡る見通しと機会についての研究、マイクロ資料の保存ガイドラインの改訂、オリジナル資料の処分についての研究、肉眼で読める資料のデジタル化と法的証拠能力について、アナログ光ディスクの使用調査、デジタル画像化ワークショップ教材の作成など、実に盛り沢山である。 |
ガイドラインの構成 |
さて、こうして改訂版『マイクロ資料の保存ガイドライン』は、1997年初めに印刷物となってICA会員に配布された。原文は英語である。 新旧のガイドラインの比較も興味深いテーマには違いないが、ここでは改訂版ガイドラインを紹介していくことを主眼としよう。改訂版『マイクロ資料の保存ガイドライン』は次のような構成である。 |
はじめに 1. 基本的な調整 1. 1 覚書きと正式契約 1. 2 調整の際に注意すること 2. 撮影の準備 3. どんなマイクロ化を選ぶか 3. 1 タイプ 3. 2 種類 4. 撮影 5. 現像 6. チェック 7. 複製作成 8. 保管と取扱い 8. 1 環境条件 8. 2 配架、 容器、 点検 8. 3 取扱い 9. 利用 10. 参考文献 10. 1 国際標準 10. 2 その他 |
地球規模のマイクロ資料保存 |
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ガイドラインは地球規模で資料のマイクロ化、およびマイクロ化した資料とマイクロ資料の保有の方向性を示そうとするものである。その前文には、次のように記されている。 永久に保存できる素材でできたマイクロ資料とは、資料情報の記録には実に安定的な媒体である。 今日一般的に用いられている媒体としては、銀塩(シルバーゼラチン)マイク ロ資料は永久保存の観点からみて良質の中性紙の次にランクされるものである。 といっても、マイクロ資料はなお壊れやすいものといわざるを得ない。 それは、次のような事情による: *正しい方法で撮影・現像していなければ読めなくなる *安定で、耐久性あるベースにのせてあり、かつ適切に現像と保管が行われなければ、劣化する *不注意な取扱いにより簡単に傷む したがって、マイクロ資料を十分長期間、利用可能のまま保つには、マイクロ化プロジェクトのあらゆる段階で、適切な国際標準の適用と、良質な取扱い実務の実施が欠かせない。 マイクロ化プロジェクトは、
マイクロ資料の保存と利用に必要なものは:
無期限の保存と利用が前提となる文書館のマイクロ資料のために、適切な条件を確保するという基本的な責任は、マイクロ資料を受け入れようとする文書館自体が負うものである。 だが、この責任をきちんと果たすためには、資料のオリジナルの所蔵者である文書館などとの協力は欠かすことができない。 |
複雑な所蔵関係 |
ICACA130か国の国立機関の会員の多くは、上にのべたような途上国である。 こうした途上国はまた多くの場合、第2次世界大戦後に旧植民地であったものが宗主国から独立して建国されている。 そのため、独立以前のその地域に関わる記録の多くが旧宗主国にしか保存されていない。 それは、旧宗主国が植民地独立の際にその地域に関わる記録を宗主国の所有するものとして持ち帰ってしまったためである。 たとえば、返還を控えた香港では中国政府が英国に対し、アーカイブの持ち帰りを認めないという意向を表明している。 1994年にギリシアのテサロニキで開催された第30回ICA円卓会議では、マイクロ化により旧宗主国に存在する自国の資料の入手が議論となり、旧植民地側のアーキビストからは「本来我々の国に属するべき資料を持ち帰った上、我々はそれを見に行くために莫大な出費を強いられる。さらに、資料をマイクロ化したものを購入しなければならない立場に追い込まれている。 これはアンフェアといわざるを得ないではないか」という激しい抗議の声が上がった。確かに、政権の交替や変化に伴い、それまでの為政者が蓄積した行政記録、すなわちアーカイブをどこに保存するかという問題は深刻である。歴史の流れが早まるにつれてこの問題は表面化し、議論が活発になってきているようだ。 このような論議が反映されているのが、ガイドラインの第1章、基本的な調整である。 とくに1.1覚書きと正式契約の部分では、原本資料のマイ クロ化を行う場合、原本所蔵者、マイクロ化資料獲得者、マイクロ化作業担当者の三者がそれぞれの立場を持ち得ることを前提として説明されている。 中でも、原本所蔵者とマイクロ化資料獲得者の立場は、先にも述べたような理由から、しばしば旧宗主国と旧植民地であるため、2国間、多国間の調整となることを念頭に置いて説明されている。 |
第1章 基本的な調整 1.1 覚書きと正式契約 第2章 撮影の準備
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